宮本武蔵 対 モンテクリスト伯爵
中学校の時、仲の良かったキヨコちゃんは、歌舞伎が好きで、読書家だった。私たちは、よく、歌舞伎や本の話をした。キヨコちゃんは、英語が得意だったので、翻訳ものを読んでいて、私は、もっぱら、近代の純文学だった。歌舞伎役者は、私が染様(染五郎)で、キヨコちゃんが海老様(海老蔵)をひいきにしていた。わたしたちは、渋い中学生であったのだ。
あるとき、市川海老蔵が、宮本武蔵をTVドラマでやることになり、当時は、家庭内ビデオなんてまだなかったから、夜遅くまで起きていて、眠い目をこすりながら見た。二人は、見ては、翌日その話をした。当然、吉川英治の原作を読むべきと思い、私は夢中で読み始めた。一方、キヨコちゃんは、「岩窟王」というタイトルで、、草刈正雄が江戸時代の設定で演じている『モンテクリスト伯』を選んだのだった。
二人は、どこまで読んで、どんな内容だったのか、時々話をした。
わたしたちは、よきライバルでもあった。
キヨコちゃんがおもしろがってする本の話を私は、ほとんど忘れてしまったが、モンテクリスト伯という名前は覚えていた。
その後、私は、古典文学の道へ進み、キヨコちゃんは、英文科へと進んで、大学生以後、引っ越したこともあって、音信不通になってしまった。
先日、ドイツの旅で、バルト海をクルーズしたり、古城街道を歩いたり、史跡を巡ったりした。ハンザ同盟の町並みや、中世の町の石畳、、古城や宮殿などを見て回るうち、今まで、漠然と読んでいた翻訳ものが、リアルに迫ってきた。
帰国してから、昔、父の本棚にあった、世界文学全集のタイトルが、次々うかび、なんとわなしに敬遠していたヨーロッパの名作古典文学を、無性に読みたくなった。
シェイクスピア全集・アンナカレーニナ・カラマーゾフの兄弟・怒りの葡萄・マノンレスコー・嵐が丘・・・・・
そして、モンテクリスト伯。
おりしも、児童文学研究会で本紹介をするために岩波少年文庫を読みだしていた。そのなかに、あった、あった、モンテクリストも。
作者のデェマは、1800年代の破滅型の大衆作家。多くの弟子たちに事件や史実を調べさせて、それをつなぎ合わせてプロデュースしたという作家でもあったという。
翻訳家にもよるであろうし、子供向けの縮訳ということで、100%原作を読んでいるわけではないが、読み始めたら、なんと面白いこと!
レンタルした1998年のフランスTVドラマのDVDも、おおいにイメージの手助けになったが、やはり、ストーリーのはしょりもあり、文字の文学が面白い。
キヨコちゃんが夢中になったのもわかる。どうして中学生の時、読まなかったんだろう。あんなに聞かされて、わかった気持ちになっていた。読んでいたら、人生変わっていたかも知れない。きっと、万葉集や源氏物語をやらずに、フランスに留学していたかもしれないなあ。
いやいや、中学の時ブックトークをしたことが、何十年たっていま、実を結んだのかもしれない。よき友キヨコちゃんに感謝。
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